
リクルートOB向けイベントで語った「オフィスがエンゲージメントに与える影響」
2025年6月28日、私は「カモメモリーズイベント」にてリクルートOB・現役社員の方々を前に、かつてのリクルート本社「G8ビル」がリクルート文化に与えた影響について講演する機会をいただきました。総務部の視点から見たオフィス空間の価値と、それがいかに社員エンゲージメントに影響を与えたかを言語化し、共有しました。
現役リクルート社員の方々からも「過去の文化を知ることで、現在の企業DNAの源流を理解できた」との声をいただき、世代を超えた知見の共有の場となりました。

G8ビルに仕掛けられた「エンゲージメント戦略」の核心
即時的な成功体験の共有を促す空間設計
G8ビルの地下には、多くの社員が知らなかった「秘密の倉庫」がありました。この倉庫には大型冷蔵庫が設置され、常に冷えた缶ビールが用意されていたのです。
目標を達成した部署があると、総務部はこの倉庫からギンギンに冷えた缶ビールを台車で運び、「すし清」から寿司桶を取り寄せ、その場で成功を祝いました。現在でいえば「Uber Eats」や「カクヤス」のサービスを、当時の総務部が社内で完全に体現していたのです。
この即時的な成功体験の共有システムについての話は、現役社員の方々に特に強いインパクトを与えたようです。成功の「見える化」と「共有」が、次の挑戦への原動力となる--そんなリクルート文化の根幹を支えていたのがG8ビルの空間設計だったのです。

部門横断コミュニケーションを促進する仕掛け
G8ビル1階の会議室は、「山手線一周ウォーキング大会」のスタートとゴール地点としても活用されていました。金曜日の夜に「ただ歩く」という一見シンプルなイベントが、実は部門を超えた横断的コミュニケーションを生み出す重要な場となっていたのです。
このイベントを通じて生まれた部門間の交流は、多くの「自己申告(社内異動希望)」を誘発しました。当時のリクルートの退職率はわずか5%程度でしたが、社内転職率は30%に達していました。現代でいう「社内ビズリーチ」が、すでに企業文化として完成していたのです。
江副・大沢両氏の「総務哲学」とエンゲージメント戦略
最強の総務部がオフィスを「文化装置」に変える
G8ビルには社員のエンゲージメントを高める細かな仕掛けが随所に施されていましたが、それ以上に重要だったのは、その仕掛けを最大限に活用する「最強の総務部」の存在でした。
創業者の江副さんと大沢さんは、「オフィスは単なる働く場所ではなく、企業文化を体現する装置である」という哲学を持っていました。彼らは総務部に対して:
社員の成功を最大限に祝福する「セレブレーション機能」
部門の壁を越えた「コミュニケーション促進機能」
挑戦を称える「リコグニション(承認)機能」
これらの役割を担うことを期待し、権限と予算を与えていたのです。

データで見るG8ビルの効果
当時のリクルートでは、以下のような成果が見られました:
社内イベント参加率:平均85%以上
社員満足度調査:オフィス環境項目で90%の高評価
社内公募制度の活用率:年間30%(業界平均の約3倍)
退職率:5%(同業他社平均の半分以下)
これらの数字は、物理的な空間設計と総務部の運用が一体となった「エンゲージメント戦略」の成功を示しています。
現代企業が学ぶべき「G8ビル哲学」の3つのポイント
1. 成功体験の即時共有システムの構築
現代企業でも応用可能な「G8ビル哲学」の第一のポイントは、成功体験を即時に共有するシステムの構築です。
実践のヒント:
部門ごとの目標達成を可視化するデジタルボードの設置
成功祝福のための即時対応予算の確保と権限委譲
オンライン・オフラインを問わず祝福できる仕組みづくり
2. 「偶発的出会い」を設計する空間づくり
G8ビルでは、異なる部門の社員が自然に交流できる空間設計が意図的に行われていました。
実践のヒント:
フロア間の移動を促す機能配置(例:フロアごとに異なる特色のあるカフェスペース)
部門横断型の任意参加イベントの定期開催
共用スペースでの偶発的会話を促す什器・レイアウトの工夫
3. 総務部門の戦略的ポジショニング
G8ビルの真の成功要因は、総務部門を「コスト部門」ではなく「エンゲージメント向上の戦略部門」として位置づけていたことにあります。
実践のヒント:
総務部門のミッション再定義(管理からエンゲージメント向上へ)
総務担当者への権限委譲と即断即決の文化醸成
エンゲージメント指標と総務活動の連動性の測定
まとめ:オフィスは「文化装置」である
G8ビルは単なるオフィスビルではなく、リクルートの企業文化を体現し、強化する「文化装置」でした。物理的な空間設計と、それを最大限に活用する総務部門の存在が、高いエンゲージメントと低い退職率、活発な社内異動という好循環を生み出していたのです。
現代のハイブリッドワーク環境においても、この「G8ビル哲学」は十分に応用可能です。物理的なオフィスとバーチャル空間の両方で、いかに「文化装置」としての機能を持たせるか--それが今日の企業に問われている課題ではないでしょうか。
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